はじめに
クラウドネイティブ時代において、攻撃者は本格的な攻撃に先立ち、対象環境の情報を収集する Reconnaissance(偵察活動) を行います。この段階を早期に検知・可視化することは、未然防止型のセキュリティ運用を実現する上で極めて重要です。
本記事では、Sysdig Secure に統合されたAIアシスタント「Sysdig Sage」 を活用して、Reconnaissance活動を日次・週次で可視化する業務フローをご紹介します。
観測フェーズの目的
偵察活動業務の目的は、以下の通りです。
「Sysdig Sage を活用して、偵察活動(Reconnaissance)に該当する攻撃兆候を 定量(件数・傾向) と 定性(手法・ツール・プロセス) の両面で把握し、インシデント予兆の早期発見につなげること」
この観測フェーズにより、現場のセキュリティチームは、ノイズの中から本質的な異常を掘り出す力を獲得できます。
観測業務の流れ
偵察(Reconnaissance)はサイバー攻撃の初期段階であり、ここで脅威を検知・対処することは事業継続とリスク管理の観点から極めて重要です。攻撃者は偵察活動でネットワークの脆弱性を探り、本格的な攻撃の準備をします 。この段階で異常を検知できれば、重大な侵入被害を未然に防ぎ、システム停止やデータ漏洩による業務中断を避けることができます。
以下の流れで偵察活動の検知状況をSysdig Sageから定期取得し、可視化していきます。
Step 1:期間の設定
まず、比較対象となる2つの期間を設定します。
- 過去7日間(例:4/14〜4/20)
- その前の7日間(例:4/7〜4/13)
Step 2:Sysdig Sageへのクエリ
セキュリティ担当者は日々大量のアラートに直面し、限られた時間で対応を迫られます。Sysdig Sageを活用することで、こうした担当者の負荷を大幅に軽減し、運用効率を高めることが期待できます。Sysdig Sageはクラウド上のセキュリティアナリストAIとして、自然言語で質問するとセキュリティイベントを要約し、関連情報や対策を提示してくれます 。例えば「最近の高危険度イベントを要約して」と尋ねれば、該当イベントの統計と詳細を即座に示してくれるため、担当者は手動でログを精査する手間が省けます。
自然言語で以下のように質問します:
過去7日間に検出されたReconnaissance関連のイベント件数と、先週との傾向比較を教えてください。また、使用されたMITRE技術ID、攻撃ツール、プロセス名も一覧で提供してください。
Sageは自動的に関連イベントを抽出し、サマリを返してくれます。
日次・ 週次レポート例(出力サンプル)

可視化から行動へ
偵察活動の早期検知には高度な分析が求められますが、Sysdig SageのAI技術はその精度向上に寄与します。Sysdig Sageはマルチステップの推論やコンテキスト認識に優れ、膨大なセキュリティイベントの中から本当に重要な脅威を絞り込むことが可能です 。特にFalco由来の検知ルールと連携し、イベントの内容(例えば不審なコマンドや通信パターン)を解釈・説明できるため、アラートの意味を正しく理解して精査できます 。その結果、担当者は誤検知(フォルスポジティブ)を効率よく判別し、必要な対応に集中できるのです 。一般にセキュリティ運用では、全アラートの最大半数が誤検知だという調査もあります 。誤検知が多いと重要なアラートを見逃す“アラート疲れ”を引き起こしがちですが、Sysdig SageのようなAI支援によりノイズを低減し、真に危険な兆候を浮き彫りにできます。一方で、AIの限界や過検知にも留意が必要です。偵察行為自体は巧妙に隠匿される場合も多く 、すべてを機械任せにすることはできません。
この偵察活動可視化業務は単なるレポート作成に留まりません。
- 検知ルールの改善(例:EC2 Metadata Service アクセス時に即通知)
- 発生プロセスの調査と封じ込め
- クラウドインフラのセキュリティグループ見直し
- Slack/Jiraによる自動エスカレーション
といった実際の行動に結びつけることが本質です。
まとめ
偵察段階での検知・対応は、組織のインシデント対応力を飛躍的に高めます。偵察行為そのものは直ちに被害を生じませんが、これをサイバーキルチェーンの入り口で断つことで攻撃の進行を遮断できます 。実際、偵察を許してしまうと攻撃者に「弱点の地図」を与えるようなものであり、その後の侵入や攻撃を精密に実行される恐れが高まります 。Sysdig Sageを用いた偵察の早期検知は、セキュリティチームにとっての早期警戒システムです 。例えば不審なポートスキャンを検知した時点で直ちにそのIPアドレスを遮断したり、さらなる侵入兆候がないか周辺ログを深掘り調査することで、攻撃者の次のステップ(マルウェア投入や脆弱性悪用など)を未然に防ぐ行動を取れます。これはいわば侵入を水際で防御することであり、被害の芽を摘む効果があります。
攻撃の兆候を見逃さず、日々のセキュリティ運用を「気づき」から「対応」へと進化させていく――
その第一歩が、偵察活動可視化業務の定期運用です。