Linuxカーネルのしくみを学ぶ
Linuxカーネル とは、Linuxベースのオペレーティングシステムで使用されているカーネルであり、ハードウェアとコンピュータ上のプロセスの橋渡しを行う中核的なソフトウェア です。カーネルとは、コンピュータの低レベル機能を管理する特別なプログラムであり、OSの中でも最も基本的かつ重要な部分を担っています。
現代のオペレーティングシステムには、ログ収集機能やユーザー管理機能など、さまざまなツールやサービスが含まれていますが、その中心でハードウェアとソフトウェアを統合し、システムを動作させているのがカーネルです。
Linux は数あるカーネルのひとつに過ぎません。他のオペレーティングシステムもそれぞれ独自のカーネルを持っており、またカーネルには複数のアーキテクチャが存在します(これについては後述します)。しかし、どのカーネルも共通して、オペレーティングシステムを動作させるために必要な基本的な機能 を担っている点に変わりはありません。
LinuxカーネルとLinux OSの比較
「Linux」という言葉は、Linuxカーネルを使用しているオペレーティングシステム全体 を指す意味で使われることがよくあります。しかし技術的に言うと、Linux はカーネルそのもの にすぎません。
Linuxベースのオペレーティングシステム上で動作する、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)、Webブラウザ、業務用アプリケーション などのソフトウェアは、Linuxカーネルの一部ではなく、別のプロジェクトによって提供 されています。そのため、Ubuntu や Red Hat Enterprise Linux のような Linux ベースの OS を指す際に、「GNU/Linux」という呼称が使われることがあります。
これは、Linuxカーネルと組み合わせて OS を構築する多くのプログラム(すべてではありません)が、GNUプロジェクト によって開発されたオープンソースソフトウェアであるためです。
Linux 自体は GNU によって開発されたものではないため、Linux カーネル開発者と GNU 開発者の両方の貢献を称える 意味で「GNU/Linux」と呼ばれるのです。
一方で、「Linux」という言葉を単に 完全な Linux ベースの OS を指す意味で使うこともあります。結論として、「Linux」という言葉は文脈によって、狭義には カーネルそのもの、広義には Linuxカーネルを中核とし、他のプログラムを組み合わせたオペレーティングシステム全体 を意味する場合があります。
LinuxとUnixの比較
「Linux」という言葉が、「Unix」とほぼ同じ意味で使われることもあります。これは、Linuxカーネルが、Unix のカーネルと同様の動作をするように設計されている ためです。
Unix は 1969 年から 1990 年代半ばにかけて開発されたオペレーティングシステムです。当時、Unix カーネルは特定のハードウェアでしか動作せず、さらにライセンスによる制限も多かったことから、代替のカーネルを独自に開発するプログラマーたち が現れました。
Linux は、そうした「Unix 代替カーネル」のひとつです。ほかにも有名な例として、FreeBSD や NetBSD、さらには macOS で使用されているカーネルなどがあります。ただし、明確にしておくと、Linux は Unix のソースコードを一切使用していません。
Linux はあくまで、Unix のカーネルと同様の仕組みで動作するように設計されたもの です。このため、Linux は「Unixライク(Unix互換)カーネル」と呼ばれることが多いのです。つまり、Linux は Unix のように動作するシステムを構築することはできますが、Unix そのものではありません。
Linuxカーネルアーキテクチャ
ほとんどの現代的なカーネルと同様に、Linuxカーネルは「モノリシックカーネルアーキテクチャ(monolithic kernel architecture)」 を採用しています。これは、カーネル全体がひとつのプログラムとして動作する ことを意味します。
一方、Linux とは異なるアプローチとして マイクロカーネルアーキテクチャ(microkernel architecture) があります。こちらは、カーネルの機能をより小さく独立した複数のプログラムに分割して構成する仕組みです。
マイクロカーネルは1980年代から1990年代にかけて注目されましたが、実際の実装では期待されたほど成功しなかったケースが多くありました。たとえば macOS は、一部にマイクロカーネルの要素を取り入れています。ただし macOS のカーネル構造も部分的にはモノリシックであるため、一般的には ハイブリッドカーネルアーキテクチャ(hybrid kernel architecture) と呼ばれます。
一方で Linux は、その歴史を通じて一貫してモノリシックな構造を維持 しており、それがシンプルさとパフォーマンスの高さにつながっています。
Linuxカーネルの誕生と発展
Linuxカーネル は、1991年に当時20代前半だったフィンランドのプログラマー リーナス・トーバルズ(Linus Torvalds) によって開発が始まりました。彼は自らのプログラミングスキルを磨くとともに、x86アーキテクチャのPC上で動作するUnixライクなオペレーティングシステムを実現したい と考えていました。
当時も x86 向けの Unix ライクなカーネルはいくつか存在しましたが、有償だったり、トーバルズのPC環境とは互換性がなかったり という問題がありました。そこで彼は、自ら Linux カーネルを一から開発し、そのソースコードへのリンクを Usenet(当時のオンライン掲示板のようなネットワークサービス)で公開しました。
その投稿をきっかけに、他の開発者たちがトーバルズのカーネルにコードを追加・改良し始め、インターネットを通じた共同開発 が始まりました。これが、オープンソースプロジェクトとしての Linux 誕生 の瞬間です。
1990年代半ばには、Linux の機能が十分に整い、本格的なオペレーティングシステムの基盤として利用可能 になりました。当時、独自の無償カーネル開発が停滞していた GNUプロジェクト のソフトウェアと組み合わせることで、Linux はサーバーやPCで実用的に動作するようになったのです。
これにより、Linux は当時市場を支配していた Windows に対抗する存在となりました。デスクトップPC向けでは大きなシェアを獲得しなかったものの、サーバー向けOSとして広く普及 し、確固たる地位を築きました。
さらに現在では、クラウドコンピューティング環境における中核的存在 となり、多くのホストサーバーを支える基盤技術として欠かせない役割を果たしています。
Linuxカーネルの特徴
Linuxカーネルの最も重要な機能は、他の現代的なオペレーティングシステムと共通する基本的な要素です。
- リソース管理: Linuxはハードウェアリソースを管理し、プロセスがそれらを利用できるようにします。 カーネルは優先度に応じて柔軟にリソースを割り当てることができ、たとえば nice コマンド を使うことで、プログラムごとにCPUリソースの使用優先度を調整できます。
- インプット/アウトプット:Linuxカーネルは入出力処理を提供し、デバイスが永続ストレージや一時ストレージに対してデータの読み書きを行えるようにします。 これにより、アプリケーションはハードウェアの詳細を意識せず、標準的な方法で入出力を実行できます。
- システムコール:カーネルは、プログラムがリソースを要求する際に利用する「システムコール」を提供します。 たとえば、新しいプロセスを開始する場合、アプリケーションはシステムコールを通じてカーネルに要求を送り、処理が実行されます。
- デバイス管理:カーネルは、ハードディスク、ネットワークインターフェース、ディスプレイアダプタなど、コンピュータに接続または組み込まれたさまざまなデバイスとのやり取りを可能にします。 多くのデバイスは カーネルモジュール によって管理され、これらは動的にカーネルへ読み込むことができます。
これらの基本機能に加えて、近年の Linux には 独自の高度な機能 がいくつか搭載されています。代表的なものは次の通りです。
- Kernel Virtual Machine(KVM):KVM(Kernel Virtual Machine) は、Linuxカーネルに組み込まれた仮想化フレームワークです。 これにより、仮想マシンをカーネル上で直接実行 することが可能になります。 ただし、KVMの機能を操作・管理するためには、追加のツール(例:libvirt、virt-manager など)が必要となる場合があります。
- LXC(Linux Containers): LXC は、従来の仮想化を使用せずに、プログラムを分離されたコンテナ環境で実行する ためのLinux技術です。 LXC はもともと Docker コンテナの基盤として開発されましたが、現在の Docker は独自のコンテナランタイム技術を使用しています。
- eBPF(Extended Berkeley Packet Filter): eBPF は、Linuxカーネル内でサンドボックス化されたプログラムを直接実行 できる仕組みです。 比較的新しい技術であり、現在も進化を続けていますが、高い安全性と効率性を備えたリソース管理 を可能にするため、 モニタリング や セキュリティ 分野での活用が期待されています。
ほとんどの他のオペレーティングシステムでは、これらのような機能を利用するためには サードパーティ製の拡張機能やアドオン に依存する必要があります。しかし Linux では、これらの機能が標準で組み込まれており、カーネルをコンパイルする際に機能を有効化していれば、そのまま利用することができます。(ここでいう コンパイル とは、ソースコードをコンピュータが実行可能なコードに変換するプロセスのことです。)
Linux の多くの機能は、カーネルをコンパイルする際に有効化または無効化を選択できる ようになっています。このモジュール化された設計により、必要のない機能を省いて 軽量なカーネルを構築 することも可能です。)
まとめ
Linux は非常に強力なテクノロジーですが、誤解されやすい存在 でもあります。まず理解しておくべきなのは、Linux そのものはカーネルであり、完全なオペレーティングシステムではない という点です。
また、Linuxカーネルには他の多くのOSにはない 多彩で高度な機能 が備わっていますが、それらを活用するには、カーネルの構築(コンパイル)時に該当機能を有効化する必要 があります。